近年、フレーバー(水たばこ)として楽しまれる「シーシャ」が若者を中心に人気を集めています。
甘いフルーツやデザートの香りでタバコ特有の臭いも少なく、水を通すことで煙がまろやかになるため、「シーシャには害がない」「紙巻きタバコより安全」と思われがちです。しかしシーシャにも害はあるのが実情です。
本記事では、シーシャがもたらす健康被害のリスクについて科学的根拠に基づいて解説し、紙巻きタバコとの比較を交えながら、その実態を明らかにします。
読者の皆さんが誤った安心感に陥らず、正しくリスクを理解した上で適切な判断ができるよう、最新の知見や公的機関の情報も参考にまとめます。
シーシャに害がないというのは嘘
「水でろ過しているから害がない」「タバコ葉を燃やしていないから安全」――シーシャについてこのように語られることがあります。
しかしこれは誤解です。
シーシャに含まれる有害物質は4種類ある
シーシャの煙には紙巻きタバコと同様、さまざまな有害物質が含まれています。その代表的なものとして、以下の4種類が挙げられます。
- 強い依存性を持つ「ニコチン」
- 発がん性物質を含む「タール」
- 不完全燃焼で発生する「一酸化炭素」
- 有害化学物質や「重金属類」
強い依存性を持つ「ニコチン」
シーシャはフレーバー付きとはいえ原料にタバコ葉を使用する以上、煙にニコチンが含まれます。ニコチンは中枢神経に作用して「快感」をもたらす一方、神経系への毒性が強く依存性(習慣性)が高い物質です。
シーシャ1回の喫煙で摂取するニコチン量は、場合によっては紙巻きタバコ数十本分に相当するとも報告されています。
ニコチンにより血中にドーパミンが放出され快感を得るため、繰り返すうちにやめられなくなるリスクがあります。
発がん性物質を含む「タール」
タールとはタバコの煙に含まれる黒褐色の粘質物質で、様々な発がん性化学物質の混合物です。紙巻きタバコ同様、シーシャの煙にもタールが含まれます。
タールは肺にこびりつき、長期的な喫煙で肺がんのリスクを高めます。また喉や気管支にもダメージを与え、慢性気管支炎など呼吸器障害の原因にもなります。
不完全燃焼で発生する「一酸化炭素」
シーシャでは炭を燃やしてタバコ葉を加熱するため、多量の一酸化炭素(CO)が発生します。一酸化炭素は無色無臭ですが、血液中でヘモグロビンと強く結合して酸素運搬を妨げる有毒ガスです。
そのため吸入しすぎると頭痛やめまい、最悪の場合は意識喪失に至ります。シーシャは1時間以上かけてゆっくり吸うことが多く、その間に発生するCOの量は紙巻きタバコをはるかに上回ることがあります。
ある調査では、シーシャ1セッションで吸収されるCOは紙巻きタバコの最大9倍に達しうると報告されています。
有害化学物質や「重金属類」
シーシャの煙には、その他にも様々な有害物質が含まれます。例えばタバコ葉や炭の燃焼過程で生じるホルムアルデヒド等の有害化学物質、鉛やヒ素、ニッケルといった重金属類も検出されます。
これらは肺や血管、各臓器に蓄積・悪影響を及ぼし、がんや心疾患のリスク要因となります。水を通しているからといって、これら有害成分がすべて除去されるわけではありません。
水を使用したろ過だけでは有害成分を完全除去できない
シーシャの煙には健康に有害な成分が多く含まれています。水を使用したろ過も過信は禁物です。
確かに水によって煙の温度が下がり吸いやすく感じられますが、水だけで有害成分を完全に除去することはできません。むしろ煙がまろやかになる分だけ深く長時間吸ってしまい、結果として有害物質の摂取量が増えてしまう可能性も指摘されています。
世界保健機関(WHO)も「シーシャの煙は水で浄化される」という認識は誤りであり、シーシャは決して安全な代替品ではないと警鐘を鳴らしています。
シーシャがもたらす健康被害
シーシャを習慣的に吸引すると、様々な健康被害のリスクが高まります。
主なリスク要因とその影響は次のとおりです。
- 常習的な使用によってニコチン依存症のリスクが高まる
- 肺がんや呼吸器障害のリスクが高まる
- 心臓に負担をかけるため動脈硬化や心疾患のリスクが高まる
- 大量の煙を口腔内に含むため歯や口にも悪影響がある
- 同じ器具を共有して吸うことによる感染症リスクがある
- 炭の燃焼煙に含まれる一酸化炭素によって頭痛やめまいが起こる
常習的な使用によってニコチン依存症のリスクが高まる
ニコチンの強い依存性により、シーシャを常習するとニコチン依存症(タバコ中毒)に陥る恐れがあります。
紙巻きタバコと比べ香りが良いため危機感が薄れがちですが、ニコチン摂取が繰り返されれば依存症状(イライラや集中力低下など禁断症状)が現れ、やめたくてもやめられなくなります。
ノンニコチンのフレーバーであっても様々な健康被害のリスクがある
なお近年はニコチンゼロの「ハーブシーシャ」も登場していますが、ノンニコチンであっても煙に含まれる一酸化炭素や微粒子などによる健康被害のリスクは残ります。
ニコチンが無いからといって無害ではない点に注意が必要です。
肺がんや呼吸器障害のリスクが高まる
シーシャの長期使用は、紙巻きタバコ同様に肺がんのリスク要因となります。実際、シーシャ(水タバコ)喫煙者は非喫煙者に比べ肺がんの発症率が有意に高いことが報告されています。
また慢性的な気管支炎やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)など呼吸器障害を引き起こす可能性も指摘されています。シーシャの煙に含まれる粒子状物質やタールが肺にダメージを与え、長期にわたり炎症と組織変化を与えるためです。
心臓に負担をかけるため動脈硬化や心疾患のリスクが高まる
シーシャの喫煙は心血管系にも悪影響を及ぼします。喫煙直後には心拍数や血圧の上昇といった急性の心血管への悪影響が生まれ、長期的にも動脈硬化の促進や冠動脈疾患・心筋梗塞リスクの増大が報告されています。
一酸化炭素による慢性的な酸素不足や、ニコチンによる血管収縮作用が重なり、心臓に負担をかけるためと考えられます。
実際に、水タバコ喫煙者はコレステロールや中性脂肪値が上昇しやすく、心血管疾患の危険因子が悪化する傾向も指摘されています。
大量の煙を口腔内に含むため歯や口にも悪影響がある
シーシャは大量の煙を吸って吐き出すため、口腔内にも影響があります。まず煙に含まれるタールによって歯の黄ばみ(着色汚染)が起こりやすくなります。
また熱い煙や化学物質が口腔粘膜を刺激し、歯肉炎や歯周病などのリスクを高める可能性があります。長期的には口腔がんのリスクも懸念されており
、口内炎が治りにくくなる、味覚障害が生じるといった影響も報告されています。シーシャ特有の甘いフレーバーによって唾液分泌が減少し口腔内が乾燥すると、虫歯菌や歯周病菌も繁殖しやすくなるため注意が必要です。
同じ器具を共有して吸うことによる感染症リスクがある
シーシャは通常、ホースやマウスピースを介して複数人で回し飲みのように吸うスタイルがとられます。他人と器具を共有することで、唾液を介した感染症が広がるリスクがあります。
実際に指摘されているのは、インフルエンザウイルスやヘルペスウイルス、B型肝炎ウイルス、結核菌などです。特に結核はWHOも懸念を示しており、中東の一部地域では全結核症例の約17%がシーシャの回し吸いによる感染に関連するとの推計もあります。
衛生管理の不十分な器具を使い回す行為は非常に危険であり、使い捨てマウスピースを利用するなどの対策が望まれます。
炭の燃焼煙に含まれる一酸化炭素によって頭痛やめまいが起こる
シーシャを吸っている最中や吸い終わった後に、急に頭痛やめまい、吐き気、酷い場合は意識を失う、といった症状が出ることがあります。
これはシーシャ環境で発生した一酸化炭素を大量に吸い込んだことによる一酸化炭素中毒の症状です。
一酸化炭素は先述のとおり無臭のため気づきにくく、換気が不十分な屋内で長時間シーシャを楽しんでいると、知らず知らずのうちに血中濃度が上がって中毒に陥ることがあります。
このように、シーシャは吸っている本人だけでなく、周囲の人も含め急性中毒の危険があることを認識しなければなりません。
シーシャによって起きた健康被害による死亡事例
シーシャが原因で死亡に至った例や深刻な健康被害の事例はあるのでしょうか。
現時点で日本国内においてシーシャが直接原因となった死亡事故の公的統計は多くありませんが、重篤なケースは確実に報告されています。
シーシャ喫煙の健康被害は、急性の一酸化炭素中毒から慢性の疾患リスクまで多岐にわたります。換気の悪い室内で長時間シーシャを吸うと、一酸化炭素中毒による頭痛や意識消失が起こり、重症化すると発作や昏睡、死亡の危険性もあります。
また、慢性的には肺がんや心臓病のリスクが高まり、特に水タバコ喫煙者は紙巻きタバコ喫煙者よりも癌による死亡リスクが高いことが示されています。
これは、シーシャの喫煙時間の長さや煙の量、吸いやすさから来る過剰摂取が影響していると考えられます。シーシャの健康被害は決して無視できない深刻な問題です。
シーシャとタバコはどちらの方が害があるのか

シーシャと紙巻きタバコ、一体どちらの方が健康への害が大きいのでしょうか。
結論から言えば、使用状況によって結論は異なります。ここでは有害物質の含有量と喫煙の仕組みという2つの観点から比較し、それぞれどちらがどのように有害かを見てみましょう。
- シーシャとタバコの有害物質含有量の比較
- シーシャとタバコの仕組みの違い
シーシャとタバコの有害物質含有量の比較
まず、有害物質の摂取量について比較します。
シーシャもタバコも、含まれる基本的な有害成分(ニコチン・タール・一酸化炭素・重金属など)自体は共通していますが、一度の喫煙で吸収する量や頻度に違いがあります。
習慣的に吸うタバコの方が総合的な害が大きくなりやすい
シーシャは1回のセッションで数十分~1時間以上かけて喫煙するため、一回あたりの煙の総量が紙巻きタバコより圧倒的に多くなります。
WHOによれば、シーシャ1時間の喫煙は紙巻きタバコ100~200本分に相当し、一酸化炭素やニコチン量もシーシャ1回で紙巻き数本~数十本分に達する可能性があります。
例えば、米国肺協会によれば、シーシャ利用者は1回の喫煙で紙巻きタバコの約9倍のCOと1.7倍のニコチンにさらされるとのデータがあります。
シーシャの方が有害物質の摂取量が増えてしまうこともある
しかし一方で、紙巻きタバコは1日に何本も繰り返し吸う習慣性が高い製品です。シーシャは一度に大量の煙を吸い込むものの、頻度としては週末に数回程度という人も多く、毎日何十回も吸うケースは稀です。
つまり、「習慣的に繰り返し吸う」点では紙巻きタバコの方が依存性が高く継続摂取されやすいため、長期間では紙巻きの方が害が大きくなりやすいと言えます。
一方で「1回あたり大量の煙を吸い込む」点ではシーシャの方が急性・短期的に有害物質の摂取量が多くなることもあるのです。要は、どちらがより有害かは使用頻度と一回の量双方によって左右されるということです。
シーシャとタバコの仕組みの違い
シーシャと紙巻きタバコは、煙を発生させる仕組み(喫煙方法)にも違いがあります。この違いが、有害物質の性質や量に影響を及ぼしています。
- 紙巻きタバコは高温で直接タバコ葉が燃焼する
- シーシャはタバコ葉を低温で蒸らすように加熱する
紙巻きタバコは高温で直接タバコ葉が燃焼する
タバコ葉そのものに火をつけ、約800℃もの高温で直接燃焼させて煙を吸い込みます。
フィルター付きの紙巻きタバコでは、多孔質のフィルターが一部のタールや粒子を物理的に捕捉しますが、それでも煙は高温のまま肺に届き、有害成分がそのまま吸収されます。
また火による高温燃焼の結果、ニコチンやタールと共に一酸化炭素や多環芳香族炭化水素(PAHs)など多数の燃焼副生成物が発生します。
紙巻きタバコは短時間で強い煙を吸うため喉や気管に刺激が強く、吸い込みづらさから途中でやめることで結果的に吸収量が抑えられる側面もあります。
シーシャはタバコ葉を低温で蒸らすように加熱する
シーシャは炭火でタバコ葉を低温で蒸らし、アルミホイル越しに加熱することで煙を発生させます。
水を通して冷却し、吸い込みやすくしますが、有害物質は除去されず、ニコチンやCOはそのまま吸収されます。
炭からは大量の一酸化炭素や重金属が放出され、長時間吸い続けることで多量の有害成分を摂取しやすくなります。
シーシャの健康被害についてよくある質問
最後に、シーシャの害に関してよく聞かれる疑問点についてQ&A形式で整理します。
- シーシャの煙を肺に入れない理由はなんですか?
- ポケットシーシャにも害はありますか?
- ポケットシーシャの煙を肺にいれるのはダメですか?
- シーシャがやばいと言われる原因はなんですか?
- シーシャ依存症への対策はありますか?
- シーシャと水タバコの違いはなんですか?
- ニコチンなしのシーシャはありますか?
シーシャの煙を肺に入れない理由はなんですか?
シーシャ初心者から「煙は肺に入れず口で止めると聞いたがなぜか?」という質問がよくあります。
理由は2つあります。
1つ目は「ヤニクラ防止」です。シーシャは大量の煙を吸うため、肺まで吸い込むとニコチンや一酸化炭素の作用でヤニクラを起こしやすくなります。
口中で味わうことでニコチン吸収を抑えます。2つ目は「有害物質の吸収抑制」です。肺に入れなければタールや一酸化炭素の吸収を減らせるという考えですが、口腔粘膜からも吸収されるため、根本的な害を避けることはできません。
ポケットシーシャにも害はありますか?
ポケットシーシャは従来のシーシャより有害物質が少ないが、完全に無害とは言えません。燃焼を伴わずタバコ葉も使用しないため、ニコチンやタールは含まれていませんが、リキッドの化学成分の長期的な安全性は未解明です。
また、ニコチン入りリキッドの使用は依存リスクがあります。適度な嗜好として楽しむ分には良いですが、体調に異変を感じたら使用を中断する、節度を持って利用する心構えが必要です。
ポケットシーシャの煙を肺にいれるのはダメですか?
ポケットシーシャの蒸気は紙巻きタバコの煙ほど有害ではありませんが、積極的に肺に入れることは推奨されません。
ニコチンやタールは含まれないものの、プロピレングリコールやグリセリンが肺で炎症反応を引き起こす可能性があります。深呼吸のように肺いっぱいに吸い込むのは控え、口や喉で味を楽しんだらゆっくり吐き出す吸い方が無難です。
シーシャがやばいと言われる原因はなんですか?
「シーシャ、マジやばい」「シーシャはやばいから気を付けろ」という声は、ニコチンや一酸化炭素による急性的な体調不良と、健康リスクの大きさに由来します。
初めて吸った人が頭痛やめまい、吐き気を訴えるケースが多く、ヤニクラや一酸化炭素中毒の症状が強烈であるため「シーシャ=やばい」という評価が広まっています。
また、シーシャが紙巻きタバコと同等かそれ以上に有害である可能性が指摘され、都内では月1件以上のペースでシーシャによる一酸化炭素中毒で救急搬送されている現状があります。
シーシャ依存症への対策はありますか?
シーシャを嗜むとニコチン依存症になるリスクがあります。対策としては、頻度を減らし、代替行動を用意し、環境を変えることが重要です。
頻度を減らすことで習慣的な利用を避け、リラックス目的であれば運動や入浴など健康的な手段を探します。シーシャバーに通うのを控えたり、自宅のセットを片付けることで誘惑を遠ざけます。
専門家に相談することも有効で、禁煙外来で薬物療法やカウンセリングを受けられます。早めに対策を講じることで、依存を防ぐことが可能です。
シーシャと水タバコの違いはなんですか?
「シーシャ」と「水タバコ」はしばしば別物のように語られることもありますが、基本的には同じものです。
もともと中東で水パイプを使った喫煙文化を指すアラビア語が「シーシャ」(shisha)であり、日本語に直訳したのが「水タバコ」です。両者に本質的な違いはありません。
強いて言えば、「水タバコ」という言葉は日本では一般に喫煙スタイルそのものを指し、「シーシャ」という言葉は水タバコで使用する器具(ガラス瓶やホースの付いたパイプ)や水タバコで吸うフレーバーのことを指す場合があります。
しかし最近では日本でも「シーシャ」が広く定着し、もっぱら水タバコのことを指して使われています。要するにシーシャも水タバコも同じ意味であり、呼び方の違いに過ぎません。
ニコチンなしのシーシャはありますか?
シーシャにはニコチンを含まない「ハーブシーシャ」や「ポケットシーシャ」があります。
ハーブシーシャはタバコ葉の代わりに紅茶の茶葉やサトウキビ繊維を使い、ニコチン0で香りを楽しめます。ポケットシーシャはニコチンフリーのフレーバー付き電子タバコで、水蒸気を吸います。
ただし、ニコチンなしでも完全に安全とは言えず、炭を用いるハーブシーシャでは一酸化炭素やタールが発生し、電子シーシャでも長期の安全性は未解明です。
まとめ
シーシャはおしゃれでリラックスできる嗜好品ですが、健康被害のリスクは無視できません。
煙にはニコチン、タール、一酸化炭素、重金属など有害物質が含まれ、長期的には肺がんや心臓病のリスクを高め、短期的にも一酸化炭素中毒の危険性があります。
紙巻きタバコより安全という根拠はなく、むしろ1回の喫煙で吸収する有害成分の量はタバコ以上になることがあります。適切な換気と節度ある利用が重要です。
シーシャ文化を楽しみつつも、自身の健康と照らして節度ある判断をすることが大切です。仕事柄シーシャに接する機会が多い方も、本記事の情報を参考にリスクと向き合い、今後の付き合い方を見直してみてください。